おしえてムーラン

民法改正と賃貸住宅の敷金・原状回復

平成29年5月26日、民法(債権法)改正法案が成立しました。民法が制定されてから実に120年ぶりの大改正となり、社会・経済の変化への対応、わかりやすさを念頭においた改正になっているようです。賃貸借契約について見てみると、敷金は「いかなる名目によるかを問わず、賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭をいう」と定義されました。敷金の返還義務についても明文化され、賃貸借終了時の原状回復義務については、「賃借人は、賃貸物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年劣化は除く。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を現状に回復する義務を負う。ただし、その損傷が賃借人の責めに帰すことができない事由によるものであるときは、この限りではない」とし、経年劣化、つまり月日が経って自然に損耗したものは現状回復の義務外ということになりました。


国土交通省が取りまとめた『原状回復をめぐるトラブルとガイドライン』では、「原状回復とは、居住人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること」と定義されており、今回の改正もこのガイドラインの内容に沿っていると言えるでしょう。では、どのような場合に原状復帰のために敷金等で負担をしなければならないかというと、建物や設備の自然的な劣化や損耗(経年変化)や、賃借人が通常の使用をしていても発生する損耗を除く、“明らかに通常の使用の結果によるものといえないもの”が借り手の負担となります。明らかに通常の使用の結果によるものと言えない事例、原状回復のために入居者の負担になる事例を見てみましょう。


【床】
・カーペットに飲み物をこぼしたことによるシミ・カビ
・冷蔵庫したのサビ跡、引越作業で生じたひっかきキズ
・賃借人の不注意で雨が吹き込んだことなどによる畳やフローリングの色落ちなど
【壁・天井・クロス】
・台所の油汚れ
・結露を放置したことより拡大したカビ・シミ
・タバコ等のヤニ・臭い
・重量物をかけるために壁などにあけた釘穴・ネジ穴で下地ボードの張替が必要なものクーラー(賃貸人所有)から水漏れして放置したために腐食した壁
・落書き等の故意による毀損など
【襖、柱など建具】
・飼育ペットによる柱等のキズ・臭いなど
【設備、その他】
・ガスコンロ置き場、換気扇等の油汚れ
・風呂、トイレ、洗面台の水垢、カビ等


原状回復のために敷金から支払われている例を見ていると、明らかに借り手の使い方に問題がある場合に負担しなくてはいけなくなるのがよくわかります。シミやカビは、汚れた部分を放置しておいたことによるものですし、油汚れなども普段からしっかりとキレイにしておく習慣がついていれば…という類のものでしょう。掃除が嫌い!ですとか、なかなか仕事が忙しくて掃除ができない、など理由もいろいろあるとは思いますが、普段からの何気ない行動と対応が後々のトラブルを回避することになりますので、生活する上では「こまめに」がキーワードになりそうです。換気扇、グリル、ガス台の油汚れはこまめに落とす、冬場に結露が発生しやすいのであればこまめに窓を拭くようにする、お風呂の水垢は放置しておくとなかなか取りづらくなるのでこまめに洗剤を使い掃除するなど、掃除も楽しみながらできるような工夫をしてみたいものです。家の中がキレイになっていると心もスッキリします。賃貸住宅を退去する際には、借り手も貸し手もトラブルなく、気持ちよく契約を終了させたいですよね。賃貸住宅はあくまでも貸し手である大家さんからお借りしているもの。今回の民法改正で明文化されたことも踏まえた上で、これから新しく賃貸住宅を探し入居される際には、後々のことも考えた新生活を送れるようにして欲しいと思います。

PAGE TOP