おしえてムーラン

利上げ

 昨年末、日本銀行が「事実上の利上げ」と言われる政策を発表しました。
 今回は①「利上げ」とは何なのか、②「利上げ」はどのような影響を与えるのか―などについて考えていきたいと思います。

「利上げ」とは…

「利上げ」とは、中央銀行が行う政策金利の引き上げのことをいいます。ここで、政策金利とは、中央銀行が誘導目標とする短期金利を指します。
 本来、利上げは景気が良いときに行われるもので、貸出金利を上げると企業の設備投資のため、資金や個人の住宅ローンを借りるのを抑制させるため―加熱した景気を落ち着かせるために行われる政策です。
 決して景気が良いとは言えない今、なぜ日銀は利上げを発表したのでしょうか。

利上げの影響

昨年の後半は、我が国は円安と物価高に悩まされました。この両者は密接な関係にあることは前回(11月号)で述べましたが、その際、金利の高い国の資金需要が高まる旨も併せて記しました。
 仮に為替リスクを全く考慮しなければ、誰でも、預けておいたら利息が多くもらえる方を選びます。でも、金利が上昇し資金需要が高まった通貨は相対的に高くなります。需要の拡大が為替の面でも、利上げされた国の通貨高へと導きます。
 エネルギーや製品の原材料を輸入に依存している度合いが高い日本では、円需要の増加→円高という流れから物価の高騰を抑える働きをすることになります。
 こうしてみると、利上げは物価高を抑えることで消費の落ち込みを避けるメリットがみられるものの、設備投資が抑えられるため、一国の有効需要の要素である、消費・投資・政府支出・輸出のうち、消費には良い影響を、投資と輸出は抑制される影響を与えるものと言えます。

外国の利上げが日本に与える影響

そもそも、昨年3月にアメリカの中央銀行であるFRB(連邦準備理事会)による利上げ観測から円安が進みました。その後FRBは、5月、6月にも利上げを発表したことから円安は進行していきました。
 3月に1ドル=115円台だったのに、7月には139円台までドル高・円安が進みました。
10月末には、あろうことか1ドル=150円を突破したときがありましたので、7~8ヶ月の間で円の価値は3分の2になっていたことになります。

なぜ「事実上の…」なのか

本来の「利上げ」は冒頭で述べたように、短期誘導目標を指しますが、今回、日本銀行が発表したのは長期金利の変動上限の引上げです。これまでの変動上限0.25%程度から0.5%程度に引き上げられました。
 また、日銀の黒田総裁は「金融緩和の出口の一歩ということでは全くない」すなわち、金融引締めではないと言っています。これは利上げではないというのと同義です。
 利上げの側面がクローズアップされると、物価高に不安を感じている国民感情を察するに“こんな時に借入負担を大きくしてどうするんだ”という反発が起こるであろうことが予想されます。したがって、本来の利上げではないことを強調したかったのだと思います。
 個人的には、苦しい言い訳であるには違いないものの、それは言葉の上のことであって、日本社会の現実の経済状況と想像される国民感情を考えあわせれば、最も良い“落とし所”だったのではないかと感じます。

最後に

報道では、決定された政策が及ぼすであろう影響の、ひとつの側面のみを捉えて、結果として国民の不安・不満を煽ることがありますが、社会の一員として知識を身につけ、様々な角度から、自ら政策の是非を考えることが大事なのではないかと思います。

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